2018/09/18

読書感想文・カルピスをつくった男 三島海雲

面白かった。
時代を旅するような気持ちで読み進めたのは、久しぶりの感覚かもしれません。

この本、夏の帰国中に手に入れていたものの、忙しいこともあり読書に集中
できず、読みかけのままカンボジアに戻る機内で読もうと取ってあったのです
が、関空にへの道中で家に置いてきてしまったことに気づきました・・・。

友人にも渡そうとスーツケースにもう1冊入れていたので、了承を得て先に
読ませてもらうことができたのは幸いでした。

どうせ読むなら最初から読み直そうと、手に取ったのが夜11時。
約3時間半で読了。
あまりに面白くてどんどん読み進めたのと、半分くらいはおさらいする感じで
読んだから早かったのかもしれません。

カルピスって国民の99.7%が知っている飲料なんだそうです。
年間で1000種類の新しい飲料が出て、1年後に残っているのはほんの数種類
だけという中で、残るだけでもすごいんだけど、カルピスってみんながそれぞれ
になにかしらの思い出というかエピソードがありますよね。
それを誰かに話したら共感されて、「そうそう!」となることも想像できます。
そんな飲料って他にあるかな・・・。

しかもそれだけ知られた国民的飲料なのに、それを作った人がどんな人なのか
一般的には周知されていない、という。

三島海雲が仏教の僧侶だったり、時代背景から大陸を目指した若者だったり、
というような書評は色々なところで読めるので、私はもうちょっと身近な
所の感想を書きたいと思います。

最初に旅するように本を読んだと書きました。
20年前にカンボジアに来た時のころを思い出すような、そんな気持ちもあり
ました。
三島海雲が大陸を目指したころ、たくさんの若者が同じように中国に渡った
そうです。その中でもいろんな人たちがいて(どんな人たちかは本を読んで
ください)、自分なりに思ったのは、何をするにも知性って必要なんだなと
いうことでした。
それは単なる学歴だけではなく、様々なことに思いを馳せられるか、であった
り、自分と周りにいる人を幸せにするための信念のようなものであったりする
ように感じました。
現代の私たちのような在外邦人でも色々な人がいますからね。知性は大事。
自分に知性があると言いたいのではなく、知性とは何かということを自分で
考えて他者に接していきたいということです。

大陸にいたためにいつも応援してくれた母の死に目にあえなかったという
エピソードも、つい自分と重ねて見てしまいました。
大きく辛い出来事を経験すると、人はその他の人たちの立場、状況、心情
にも思いを馳せることができるようになるような気がします。

そして経済的に困ったときに必ず誰かが手を差し伸べて、彼の生活、研究、
あるいは会社の存続までも助けようとするエピソードでは、いつも人から
助けられている自分とその姿を重ねて読んでいました。

うまく言えないけど、ホンモノだと軽薄に呼ばれるニセモノが多い今の時代、
自分がその道で本物でいるために必要なことがこの本から得られるのではないか、
そう感じて一気に読んでしまったのかもしれません。
得られるというのは違うかな、なんだろう、答え合わせをするという感覚でした。

国利民福と三島海雲は言いました。
企業は国を豊かにするだけではなく、国民を幸せにしないといけない
というような意味ですが、個人の利益のみが最優先事項みたいになってしまって
いる今の時代に、そんな思いで動ける人はそういないかもしれませんね。
でもきっとそれが国民の99.7%もの人が知っている商品を生み出した源
なんだろうと思います。

単なる本好きの素人としては、登場人物の多さと時代背景など難解に感じる
部分はあるかもしれないけど、モンゴルから一気に話が展開していくところ
まで読み進むことができれば・・・。
感覚的に、最初はとっつきにくい専門書のような感じで、あとのほうからはもう
少し重たさがなく「本を読む」というイメージで読むことができました。

それだけ三島海雲を語るには、多くの関係者がいること、日本が大きく動く
時代であったことがあるんでしょうけど、そのおかげで時代を旅するような
気持ちになりました。

三島海雲は、今のわたしたちが見直さないといけないことをずっとずっと昔に
すでに言ってくれていたんだな、と思います。
彼が息を引き取った1974年に自分が生まれたことにも、なにかあるなと勝手に
思ってしまったりしています。
先人の思いを継承できる、そんな人でありたいと改めて思わせてくれる本でした。

本のカバー紙はカルピスの瓶を包んでいたあの紙をイメージしたそう
「カルピスをつくった男 三島海雲」
山川徹 著 ・ 小学館

興味を持ってくれた人はぜひ買って読んでみてください。